『お姫様』
｢惠向いつだってお前はそうなんだよ｣
｢悪かったって優哉、だからそんなに怒るなよ｣
｢怒るなって！　これが怒らずに居られるかよ｣
｢だって、初めてお前の部屋で見かけた時から気になって、気になって。小さくて可愛い、その上美味そうだったんだもん｣
｢可愛くて美味そう、惠向はそう言う目で見ていたんだな。俺がどれほど大事にしていたかも知らないで。しかも狙って居たなんて｣
｢そうさ。お前には勿体無いね、俺様が頂いて丁度いいのさ｣
｢だからって人のものを勝手に……｣

　幼馴染に生まれついてこの方17年間、俺は惠向に勝てた試しがない
　勉強だって、スポーツだって、ガールフレンドの数だって
　唯一勝っているものといえば身長だけだった
　それだって世間様の基準からすると俺が馬鹿でかい188cm、惠向は176cm
　十分胸を晴れるサイズだったりする
　アイドル顔負けの甘いマスクで寄ってくる女の子には不自由しない
　そんな惠向はいつだって俺の持っていたものを欲しがり、横取りする癖がある
　今度だってそうだった
　大事で手を出せずに我慢しておいた俺の気も知らずに惠向は手を出したんだ
　それでいつのも大喧嘩
　いや違うな、怒るのはいつでも俺だけで惠向はノホホンとしている
　まるで堪えていない、怒っている俺がバカに見えてしまうほど……
｢あーあ｣
　俺のついたため息でいつものようにその場の冷えた空気が収まって行く
　呆気無いほど簡単に
｢今度から気をつけるよ｣
｢そう言って気をつけたことがあるか？　お前の辞書に今度と気をつけるという言葉が欠如しているのは嫌というほど分かっている｣
　腹いせに強めの嫌味を言った後、ちょっと言い過ぎたかと思い奴を盗み見た
　驚いた事に惠向は珍しく肩を震わせ俯いていた
　これぐらい言わないと惠向には分かってもらえないと思うからグッとこらえた
　すると
｢あ、ははははは！優哉お前は面白いこと言うよな、俺の頭ン中覗いてきたみたいだぜ。デモな、俺の頭ン中には辞書すら存在しないかもよ｣
（やっぱり、こう言う奴なんだよ）
　一瞬でも反省しているように捕らえた俺が馬鹿だった
　ガックリと肩を落とした俺に向かって惠向は言葉を重ねた
｢けどなお前ぐらいだぜ、林檎食われたってここまで怒るのって｣
｢ただの林檎じゃないんだぞ！姫林檎だぞ！林檎のお姫様なんだからな｣
｢確かに余り見かけないけどな、だからってそこまで執着するかね｣
　惠向が珍しくちょっぴり拗ねた声を出したんで俺も驚いてしまった
　ん？もしかして林檎相手に妬きもちって事も無いだろう
　でも、ちょっと嬉しかったりする
｢仕方ない。惠向だから『ト･ク･ベ･ツ』許してやるよ｣
　照れ臭さを隠すため、できるだけぶっきらぼうに聞えるように
　だけど殊更、特別という所に力を入れて言ってやった
　すると奴は満面の笑みを俺に向けてきた
　クッソー俺がこれに弱いって知っていてやってるんだろうか？
｢ナンダ　やっぱ優哉、お前も食いたかったんだろ。味あわせてやるよ｣
　そう言うといきなり俺の唇を掠めていった
　掠めていった唇が甘酸っぱかったのは林檎のせいだけじゃなかったんだろう
　小さくて可愛くて……
　高比　惠向（たかひめぐむ）俺の大事なお姫様
Fin 2003．1．2.
かわいい〜♪かわいいお話ですよね〜。惠向くんより、優哉くんの方がかわいい♪『林檎のお姫様なんだからな』…かわいすぎ！翌日思わず、スーパーで姫りんごを探したのは私です（笑）売ってませんでしたが。朔夜さんお見舞いありがとうございました♪
'03.08.31
Treasure
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